妖女サイベルの呼び声（著：パトリシア・Ａ．マキリップ）
楽天ブックス: 妖女サイベルの呼び声 - パトリシア・Ａ．マキリップ - 4150200017 : 本
良質で静謐なファンタジー。
華やかな魔法が飛び散るのではなく、ただ静かにサイベルという女性の内面が描かれる。
彼女の葛藤は不思議な力を持つが故の苦しみではなく恐らく誰にとっても不変のもの。
自分が泣いているということを意識しないままに泣いていた。作者の筆致と同じような静かさで。
その世界の伝説の動物がたくさん出てくるのだけれど（吟遊詩人のように伝承民話を吟誦し、あらゆる謎の解答をただ一つを例外としてことごとく知っている猪や、王の財宝にも匹敵する毛並の色つやをもつライオンや、黒猫や隼や竜までも）、それらの動物が持つ伝説が断片的に語られるのが魅力的。
いかにも剣と魔法の世界でありそうなたくさんの伝説たちがこの世界にはある。
でもこの物語で語られるのはそういった華々しい冒険ではなく静かで普遍的な物語。それをすくい上げた作者の優しさが、サイベルのことも救っている。
